2023年6月16、17日に池袋で開催された日本酒最大のイベント「日本酒フェア2023」。
「熟と燗」店主・上野が、イベント内で行われた「熟成酒の歴史と未来への提言」と題したセミナーで講師を務めましたので、その様子をレポート致します。
まずは上野の経歴を振り返りつつ、熟成酒の日本酒業界における立ち位置と可能性について整理しました。
熟成酒専門BARを立ち上げる20年ほど前、ホテルマンや酒蔵の設備関係の仕事を行う中で目の当たりにしたのは、高価格の日本酒がほとんどない市場の状況や廃業する酒蔵です。
原価積み上げの価格付けや、特定名称による価値基準が安売りという課題に繋がっていると考え、新しい価値の軸を探したところ、説明が難しくて売れないと酒蔵に眠っていた熟成酒に出会いました。
新酒は与えられる喜びがあるのに対して、熟成酒は探る楽しみを持っていると上野は言います。どちらが良い悪いではなく、新酒とは違った普遍的な時間の価値と重層的な味わいが熟成酒の魅力です。
今でこそ熟成酒は新しい価値と言われますが、歴史を紐解いてみると日本人はずっと熟成酒を嗜んできました。古くは平安時代の文献にも熟成酒についての記載があります。
では、なぜ市場に熟成酒がほぼ見られなくなったのか。その答えは明治から昭和にかけての政策と戦争にあります。政府が安定して酒税を得るために課税タイミングを変えたりすることで、酒蔵は造ったらすぐに売るようになりました。
新酒を古酒に近づける方法を記した論文もあるほどでしたが、結果的に熟成酒の文化にはブレーキがかかり新酒の技術はグッと上がりました。
講義パートに続いて、終盤には参加者を巻き込んで熟成酒が市場に定着するのに必要なことについてディスカッションを行いました。
参加者の意見も伺いながら上野が最後に選んだのは刻SAKE協会の存在意義についてです。
酒蔵、酒販店、飲食店が共通の知識を持って飲み手に誤りのないアナウンスをしていくこと、そのために定義を整え業界をまとめることが熟成酒の未来に重要だと締めくくりました。