熟成酒の文化を再興し、その楽しみを広げていく。これが熟と燗のミッションですが、過去の伝統を復活させるだけでなく、新たな文化の楽しみを少しずつでも付け加えていきたいと思っています。
その試みの一つが、ブックディレクターの幅允孝さんをお迎えしての、本と日本酒の「ペアリング」。
特徴のあるお酒を選び、それに合わせて幅さんが選書。なぜそれを選んだか、をうかがったり、一部の朗読を聞かせていただいたりしながら、ゆっくりとお酒を楽しむ。そんなイベントの第二回が、先日京都東山山麓の某所で行われました。
共催してくださった「きょうの日本酒」からは、群馬川場村の土田酒造と永井酒造のそれぞれ魅力的な新酒を。
そして「熟と燗」からは、“神亀 小鳥のさえずり 純米吟醸酒 2018”、“玉川 自然仕込 Time Machine Vintage 2018(タイムマシン)”をお出ししました。
“小鳥のさえずり”にペアリングされたのは、芥川賞候補に何度もなりながら受賞しないまま早逝した佐藤泰志の「きみの鳥はうたえる」。
近年、映像作品化が続き、再度注目されることが増えた佐藤泰志さん。その手になる小説は、男性二人、女性一人の三人の心理の奥深くを覗かせながら、謎めいたままストーリーが進行する、ドラマチックだけど静かさを感じさせてくれるとても素敵な作品でした。小鳥のさえずりの骨太な中に隠れたしっかりした旨みが、熱々燗にすることグッと立ち上がる。そんな発見をしながら、この朗読を聴くのはまさに至福。
◇ 神亀 小鳥のさえずり 純米吟醸酒 2018 720ml
価格:3,350円(税込)
一方、“タイムマシン”には、小松左京の初期の名作「果てしなき流れの果てに」。「日本沈没」などの数多くの作品や前回の大阪万博のプロデュースなどで知られる小松左京さんの最初期の壮大なS F作品。
まさにタイムマシンに相応しく、時の流れを行き来しながら、ストーリーが進むのですが、その時間軸は実に壮大。中国発の「三体」のスケールには驚かされましたが、いやいや1965年に発表されたこの作品もスケールという点では引けをとりません。玉川(木下酒造)の杜氏フィリップハーパーさんが江戸時代のレシピをもとに作り上げた“タイムマシン”を少しずつ口に含みながら、幅さんのお話を伺う。参加いただいた方々の多くが「ずっと続いてほしい時間」とおっしゃっていたのが印象的でした。
◇ 玉川 自然仕込 Time Machine Vintage 2018 500ml
価格:2,000円(税込)
熟と燗では、今後もさまざまな熟成酒文化を楽しむイベントを行ってまいります。SNSで事前にご案内できることもありますのが、時折のぞいてみていただけると幸甚です。
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